劇場版『BLAME!(ブラム)』 弐瓶勉 インタビュー
弐瓶勉のデビュー作『BLAME!(ブラム)』が、連載開始より20年の時を経て、劇場版アニメとして公開される。制作は『シドニアの騎士』のテレビ、劇場版アニメを手がけたポリゴン・ピクチュアズ。再び両者がタッグを組み、弐瓶勉自ら、キャラクターデザイン、美術ボード、コンテなど、大量の設定画を描き下ろした。原作は人類が「違法居住者」として駆除・抹殺される暗黒の遠未来が舞台。その超巨大な「階層都市」で、ネット端末遺伝子を探し求める霧亥(キリイ)の孤独で途方も無い旅が描かれる。弐瓶勉・総監修のもと、オリジナルの3DCG作品として生まれ変わった劇場版がどんなものになったのか、インタビューと設定画の一部とともに紹介する。
※設定資料の掲載など、一部ネタバレを含みます。
■配給:クロックワークス
■公開:5月20日(土)より全国公開(2週間限定)
■公式サイト:http://www.blame.jp
■上映時間:105分
©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
──劇場版『BLAME!(ブラム)』の公開、おめでとうございます。とても面白く試写を観ました。原作は弐瓶さんの漫画家デビュー作で20年前の作品ですが、今回の劇場版では、弐瓶さんが総監修として新たに大量の設定画を描かれ、ずいぶん深く作品づくりに関わられたそうですね。
弐瓶 脚本打合せまでは、ガッツリ参加していました。その後はほとんど関わっていなかったので、完成したものを観たら、決して見くびっていたわけではないんですけれど、想像をはるかに越えた仕上がりで驚きました。素晴らしかったですね。
──制作がスタートしたのは一昨年だそうですね。
弐瓶 そうですね。一昨年の10月から5ヶ月ぐらいは、ほぼ週1でポリゴン・ピクチュアズに通っていて、本当にポリゴンさんの社員になったんじゃないかと思うくらいでした(笑)。まず最初に、どういう方向でいくか、ざっくりと話をつくってから、細かい打合せを進めていった感じです。毎週行く度に、キャラクターデザインや美術設定を描いて持っていったので、自分でも知らない間にずいぶんな量になりましたね。『BLAME!』の新装版のカバーも、結局はキャラデザを兼ねることになったので、三面図みたいになっているんですよ。
シボ・キャラクターデザイン三面図
サナカン・キャラクターデザイン三面図
──劇場版のシボやサナカンは、新装版のカバーのビジュアルに、かなり近いデザインですね。
弐瓶 でも、ちょっと変わっちゃいましたけどね。シボのデザインは、新装版のカバーを描いたあとに、ちょっと違うなと思って部分的に変えています。なんか突然、嫌だと思う瞬間があって(笑)。描き直したデザインのほうが、スーツの素材が柔らかくなった感じです。なんで変えたのかは思い出せないんですけど、もしかしたらセーフガードと差別化するためだったかもしれないです。統治局は原作にも出てきますが、デザインは描き直しました。出てくる時の状況も原作とはちょっと変わりましたね。ポリゴンさんには優秀なデザイナーがいっぱいいるんですよ。実際に『シドニア(の騎士)』の時は、つむぎなどのキャラクターは、僕が新たにデザイン画を描くようなことはしませんでした。でも、その人たちにイメージを伝えるのに、口で説明するよりは描いてしまったほうが早いというか。ちょうど『シドニア』の連載も終わっていたので、とにかく相当描きましたね。
シボ・キャラクターデザイン改訂版
──こうして描かれた絵を見せていただくと、本当に大量ですね。見応えがあります。それで、設定資料集として一冊にまとめることになったわけですね。
弐瓶 そうなんです。とにかく、たくさん描いたんだと伝えたくて(笑)。一番最初の電基漁師が走って行くシーンや電基漁師の村なども、基本的には僕が描いたものを、そのまま映像でつくってくれていますね。
──原作の電基漁師の村とは全然デザインが違いますね。
弐瓶 新たに描き起こしたので。縦に長い構造なんですけど、これは監督から「縦を使った演出をしたい」と言われたので、そのオーダーに沿って描きました。実際に映像でも縦が活かされていたので、描いた甲斐がありましたね。ものによっては、構造を伝えるために断面図まで描いたりして。構造体剥き出しでいくか、漆喰みたいな外装材で覆われているほうがいいか、という話をするために、2パターン描いた設定などもあります。
劇場版『BLAME!』弐瓶勉描きおろし設定資料集
■発売元:講談社
■発売日:5月22日
■価格:2900円(税込)
電基漁師の村・美術ボード
断面図 |
全体図 |
構造体剥き出しタイプ |
外装材・漆喰タイプ |
村の入口 |
──こういった美術ボードみたいなものは、脚本打合せの度に描いていたとのことですが、一番最初に話の方向性を決める段階では、何か弐瓶さんのほうからアイデアや要望は出されたんですか。
弐瓶 最初から、みんなで考えていく感じでしたね。でも、わりとすぐに、どういう方向でいくかは決まりました。原作のどこかを抜き出して映画化すると、絶対に一般的、商業的なものではなくなる。それで劇場版オリジナルの話にしようということになったんです。僕は20年間、自分の作品を見てきたので、この作品をメジャーなものにするには、絶対にわかりやすくしなくてはいけない、という気持ちがありました。
──原作より構造的にシンプルになっているし、劇場版は最初に世界観をちゃんと説明してくれますね。
弐瓶 そうですね。でも、実は漫画のほうもすごくシンプルな話なんですよ。ネット端末遺伝子を探すだけですから。
──そうなんですけど、ネット端末遺伝子を巡る勢力図が原作のほうは、もう少し複雑で、その関係性がシンプルになっているように思いました。
弐瓶 そこはベテランの大人が何日も話し合って考えましたからね。
──なるほど。でも、本当にすごく面白かったです!
弐瓶 それは良かったです。
──ビジュアルも迫力があって素晴らしいし、映像になって動きが加わることで、例えば、「駆除系はこんなスピードで追ってくるのか!」といった、新たな発見もありました。
弐瓶 映像になると説得力が違いますよね、気持ち悪さが出て。びっくりしたのは、自分ではそんなに意識してなかったのですが、駆除系の歩く音はこんなに気持ち悪いのか、と思って。まあ、カシャカシャするよなあと。シボの足音も金属の重そうな音でいいなあと思いましたね。ちゃんと重さを考えて音がついていて。いや、すごいですよ。職人さんの技ですね。
──本当に。キャラデザや美術設定に関しては、映画のスタッフチームとは、どういうやりとりをされたんですか?
弐瓶 必要かなと思ったものを自主的に描いたり、原作に無いキャラなど、描いてくれと言われたものを描いたり。浴室は、僕が勝手に追加したんですけれど、絶対にあるだろうと思って。水は貴重だと思うので、狩りに出て戻って来た人が入れるんですよ。でも、さすがに本編には出てこなかったですね(笑)。でも設定集の表紙にもなっている着替えのシーンは、ちゃんと出てくるんです。これも最初は、僕が勝手に描いたんですけど、手描きのアニメと違って3DCGなので、このシーンのためだけに裸の3Dモデルをつくるのは、とてもコストがかかる。だから普通なら、やらないことなんです。でも完成したものには、ちゃんと着替えのシーンが入っていたので嬉しかったですね。しかも、ものすごくつくりこまれていて。
──着替えのシーン、いいですよね。電基漁師のスーツの構造もわかって、面白かったです。
弐瓶 描いて良かったです。あのシーンには、本当にスタッフの執念を感じました。絶対にあそこをつくった人は気合いが入っていたと思うんですよね。まあ、僕の絵も気合いが入ってるんですけど。「絶対に映像で見たい!」と思いながら描いたんでしょうね、俺は(笑)。あとは、服を脱いだ時も、ヘルメットのバイザーが開いた時も、すごく蒸れているはずだと。だから、ふわっと湯気を出してくれ、ということはしつこく言いましたね(笑)。そしたら、ちゃんと出ていて。湯気があるか無いかで、だいぶ人間らしさが違うと思うんですよ。大事なところなので。
づるの部屋・美術ボード
弐瓶 このへんの設定画は、づるの部屋ですね。こういうデザインは楽しくて、どういう構造になっているのか、ついついやりこんでしまいました。描いた時期によってコンセプトが変わっているので、デザインも絵によって変わっちゃってますけど。霧亥(キリイ)が治療されて寝ているシーンは、なんで、づるのベッドで寝ているんだという話になったので、最終的には、ここはづるの部屋じゃないということにもなったんですよ。づるの部屋だとしたら、やっぱり、づると霧亥をふたりきりにさせるわけにはいかないし、そもそも、おやっさんの部屋でもいいだろう、と。でも実は裏設定があって、づるのおばあちゃんがお医者さんなんですよ。治療をするのに、おばあちゃんの部屋のベッドは小さいから、づるのところに寝かせた、という設定になっています。だから、づるの部屋でいいんです(笑)。
絵コンテ・づるがヘルメットを取るシーン
弐瓶 絵コンテっぽいのも描きましたね。冒頭の、づるがヘルメットを取るまでのシーンは原作には無いものなので、「こんな感じでどうですか」と描いて渡したんです。そしたら、そのまま映像化されていて。監督やスタッフの原作者への愛を感じますよね。そもそも、プロデューサーの守屋秀樹さんが『シドニア』の中で劇中劇として出てくる1分も無い映像を「『BLAME!』にしませんか」と言ってつくってくださったのがきっかけで、ここまできたんです。そのあと、『シドニア』のBlu-rayの特典に、16ページくらいで『BLAME!』の完全オリジナルのカラー漫画を描いたんですけど、それは原作の続きなのか、何なのかわからないようなもの。そのカラー漫画が、この映画の原型になっているんですよ。これを原型にしたい、と言ったのは監督の瀬下寛之さんでした。
──スタッフ陣の原作愛がビシビシと感じられるエピソードです。それにしても、コンテも美術も、かなり映像に忠実に再現されている感じがします。
弐瓶 そうなんですよ。もちろんアレンジはされていますが、かなり再現されていて…感動ですよ! コンテなんかも、こんなラクガキを出せば、映像になって返ってくるわけですから、楽しいですよね。ずっとポリゴンさんと仲良くしていたいです(笑)。僕もようやく、3Dモデルをつくるための設定画の描き方が、なんとなくわかってきましたし。
──そうなんですか?
弐瓶 はい。僕は結構、本来は直線なものも、ガタガタした感じのフリーな線で設定画を描くんですよ。それが立体になると、ちょっと思っていたイメージとは変わっちゃう時もあるんです。それを、どうすれば思っていた通りの線になるか、というコツもわかってきました。僕も気づくのに2年くらいかかったので、それが何なのかは企業秘密ですけど(笑)。でも『シドニア』の頃から、描くとそれが映像になるので、面白さに味をしめてますね。霧亥なんか、ものすごくパーツが多いんですけど、どこまで再現されるんだろうと思って、面白がって描いちゃったんですよ。そしたら最初は、ほぼそのまま再現してくれて、いや、そんな…そのまま、やらなくてもいいのに…と(笑)。でも、重すぎて動かせなくなっちゃったらしくて。そういう裏話もあるくらいですね。だから最初につくった状態からは、だいぶ変わったんですけれど。
──線画で見ると余計にわかるのですが、霧亥のキャラデザは異様に細かいですね……。
弐瓶 この、霧亥のスーツに接着しているテープみたいなものは「分子ガムテ」という名前で、接着面が素材を溶かしてくっつけるような構造なんです。すごく頑丈で、夢のような素材。柔らかいし呼吸もするし、皮膚みたいな感じで生きています。
『BLAME!』新装版1巻カバー
霧亥・線画キャラクターデザイン
──生きてるんですか! いつも思うのですが、弐瓶さんが何かをデザインする時って、使うことを意識して描かれていますよね。
弐瓶 機能性を追究していますね。『シドニア』のロボットも、壊れにくくメンテナンスしやすいものにしようと思って、関節をできるだけ少なくしたんです。今はロボット界では二重関節が当たり前ですけど、あれはメンテナンスが大変じゃないですか。でも、本当は関節1軸でもいけるんですよ。だから、僕は1軸にしました。もちろん、二重関節を否定しているわけではないですよ。あれは、すごい発明なので。
──機能性が大事なわけですよね。
弐瓶 そうなんですよ。だから、できるだけ面の少ないデザインにしています。角なども、いっぱい生えていたりすると、それが折れると出撃のたびに直さなきゃいけないから、余計な装飾も極力減らして。
──電基漁師のスーツのデザインはいかがですか? 原作とは変わって、アバラ骨のようなデザインになりましたね。
弐瓶 大好きなんですよ、アバラ骨が。
──骨モチーフがお好きですよね。
弐瓶 好きですねえ。クジラの骨格とか美しいですよね。なんというか、ものすごい時間をかけて、あんな形ができたわけじゃないですか。それは、人が考えてデザインしたものには無い、自然にできた合理的な形。いいですよね。頭蓋骨も大好きなので、大体、こういうパワードスーツ系の全身を覆うスーツをつくると、頭は頭蓋骨っぽくしてしまうんですよ。今回のヘルメットも骨モチーフですね。
電基漁師・スーツデザイン
──素材的にはどういうイメージで描いていたんですか?
弐瓶 素材は、これはもう数万年後の世界なのでわかりません。今の技術ではつくれない何か……。熱にも強いし、ものすごく軽いと思いますよ。未来技術でつくられているわけですからね。これは、300年前くらいに電基漁師の祖先がつくったものなんですよ。今よりも技術が高かった時代につくられたものを、なんとか修理しながら大事に使っている。もう新たにつくる技術が無いんです。
──だからスーツの数が足りていない、という描写もありましたね。
弐瓶 そうそう。どんどん減っていって。このスーツは全身を覆って密閉されているんです。『BLAME!』の世界って、特に説明はしていませんが、酸素が無かったり、気圧もそれぞれに違ったり、人間が住むのに適してないエリアもいっぱいあると思うので。それを考えていくと、重力もどうなってるのかなって。
──原作の中でも、重力の関係で、エリアによって地面の位置が変わるという描写がありますよね。
弐瓶 ありましたねえ、そんなことも。だから急に重力の方向が変わったり、重力が強くなったりするのかもしれない。
──づるも可愛くなりましたね……(笑)。
弐瓶 そうですか? 気のせいじゃないですかね。……嘘です(笑)。これは可愛くしなければいけない、ということになりましてね、はい。原作がなんであんなデザインになったのかと言うと、ひねくれてたんだと思うんですよ。「美少女なんて描くか!」と。若かったから。
──でも、シボやサナカンは原作でも可愛いですよね?
弐瓶 あれは、天然のものでは無いじゃないですか。人工的にデザインされたものだから、不細工にはならないだろうと。そこには理由があるんですよ。でも、そのへんの集落で、やっと生きているような人たちが可愛いわけがないだろうと。もう垢だらけで、絶対に汚いと思うんですよ、爪とかも真っ黒で。そういうのをやりたかったんです。
──リアリティを重視したということですね。
弐瓶 そうです。『BLAME!』を描いた時は、別に一般性のあるものにしようとか、そういうことを考えていなかったので、単純に自分の描きたいものを描いたらああなったという。……でも、今回はキャラをいっぱい描きましたね。電基漁師は遊牧民のようなイメージです。
──髪型的にもそんなイメージですね。
弐瓶 とにかく風呂に入っていない感じを出したかったんですよね。髪の毛もギットギトだから、編むしかなかったのかもしれない。
──スーツが、スカートっぽくなっていて、全面に丸い装飾がたくさん付いているのも格好良いですね。
弐瓶 実は、これも一騒動あったんですよ。これを3Dにすると、模様なら問題ないんですけど、そうじゃないので一個一個がバラバラに動く。僕は映像に関しては素人だから、「物理エンジンか何かで勝手に動くんじゃないの?」と思っていたら、「いや、人が動かすんです」と言われて。走ったりするたびに、これが動くのは、あのう……みたいになりました。そこは、だいぶ話し合いましたが、結局はすごく動いていたので、大変だったんじゃないかと思います。とにかく、すごく苦労して映像はつくったんだなあと思います。
──確かにすごく動いていた気がします。今回の設定集に収録される、新しく描いた絵の中で、弐瓶さんが特に「これは絶対に映像で見たかった!」というのはどれですか?
弐瓶 やっぱり自分でコンテも描いた、づるがヘルメットを外すところ。あそこは前半のピークだと思うんですよ、霧亥が重力子放射線射出装置を撃つところよりも。このシーンで、この映画の続きを見たいという気持ちになってもらえるといいなあと思って。霧亥がこの子を見て、どう思ったかはわからないですけど、「あ、助けてあげたい」みたいな絵になるといいなと思いました。あと、ヘルメットを取った時に、湯気がふわっと出るのが見たかった。
──湯気が大事なわけですね(笑)。
弐瓶 大事ですね(笑)。人間らしい、体温とか何か匂ってきそうな感じというか。
──霧亥はすごく霧亥っぽいですね。
弐瓶 はい。どうですか、セリフ……。
──やっぱり、霧亥は喋らないなと(笑)。
弐瓶 あそこまで喋らないのかなと(笑)。
──編集部のスタッフと試写会に行ったのですが、観終わってすぐに「やっぱり霧亥は喋らなかったね」と話しました(笑)。
弐瓶 そこは、絶対につっこむところだと思うんですよね。「喋れ!」と(笑)。わりと、まともに話しているのが「俺は霧亥。人間だ」ですからね。人間じゃねえだろうと。ぜひ劇場でつっこんでほしいですね。ちょっと壊れちゃってるのかもしれないですね、霧亥さん……。
──でも霧亥は優しいですよね。
弐瓶 そうですね。ちゃんと人を助けることを優先していますからね。人間らしいところがある。いや、霧亥は面白いです。ゆらゆら動いたりする演出とか、すごく良かったですね。全然ヤルキが無い感じで(笑)。
──シャキサクが膨らんで大きくなったりする描写も面白かったです。
弐瓶 あれも、映像的にどこまでできるか話し合いましたね。でも『スター・ウォーズ』でも似たようなシーンが出てきて。もちろん、子供でも思いつくようなアイデアなんですけど、真似したと思われたら嫌だなあと思ったり…。
──原作を読んでいる人にはシャキサクはおなじみなので、それが膨らむのは楽しかったですし、シャキサクを下の階層で取ってきた、という話を霧亥がしていたので、原作のエピソードとも繋がっていますね。
弐瓶 原作を読んでいる人がニヤッとできるシーンはいくつも用意されています。ありがたいことに、この映画に関わっている人たちの中に原作ファンがいっぱいいて、原作から細かいところまで拾ってくれました。いくつかの舞台の絵は僕が設定を描いているんですけど、全部はもちろん描いていないので、本編を観たら「原作のあの背景が!」みたいなところも多々あります。原作をリスペクトしてつくってくれた感じで、嬉しかったですね。
──弐瓶さんが設定画を描いてないところで、原作の背景が出てきて、印象的だったシーンは?
弐瓶 主要な場面は、最初に打合せした通りなので、今回、自分が描いたものが出てくるんですけど、そういうところと原作に出てくる場所がうまく繋げられているな、と思いました。やっぱり、20年前に描いた原作なので、自分の中では反省する点もいっぱいあるんですよ。だからこそ、ここまで色々新たに描き起こしたのですが、スタッフの人たちには愛があったんだなと。いや、ありがたいですね。
担当 監督が原作通りにしようとして、弐瓶さんが止める、ということが何回かありましたよね。
──えーっ。
弐瓶 普通は逆ですからね(笑)。だから原作を好きで「づるが変わっちゃった!」と嘆いている方にも、ぜひ劇場で観てもらいたいです。美術監督の滝口比呂志さんが、とにかく、ものすごく上手い人なんですよ。背景もすごく描き込んであるので、1回では全部を見きれないと思うし、見る度に新たな発見があると思います。設定集を見ていただければわかると思うんですけど、僕もたくさんデザインをやっていますし。偽装端末のデザインも丸1日くらい考えたりして、本当にたくさん描きました。
──本当にたくさん描かれていますよね。ちなみに新連載の『人形の国』の1巻も、5月9日発売ですね。
『人形の国』1巻
■発売元:講談社
■価格:648円(税込)
弐瓶 今、3話を描いているんですけど(※取材は3月末に行われた)、いつもの倍の生産量なので大変です。しかも、しばらく出てくるであろうキャラデザを何人分もやっていて……。もう、この半年くらい本当に外に出ていないですね、閉じこもって描いてばかりで。そんな想いをして描いてるんですよ。可哀想じゃないですか。それを訴えるために今日は来ました(笑)。
──それで、あまりに辛すぎて、箱根でゲームをされていたわけですね(笑)。
弐瓶 ああいうのは、本当はTwitterにあげるべきじゃないですね…(笑)。本当に3話のネームをやっていて行き詰まって、急に行ったんですよ。箱根に有名な蕎麦屋があって、そこの山かけ蕎麦を食べなければいけないという気持ちになって(笑)。でも普段あまりつぶやかずに、仕事をしているとも言わないので、ああいうのだけあげてると、ほぼ遊んでる人みたいになりますね。
──いえいえ、そんな(笑)。単行本も設定集も出ますし、息抜きも必要だったというのは、読者にも伝わるかと思います。それでは最後に、原作者・総監修の弐瓶さんから見た、劇場版『BLAME!』の見所を教えていただけますか。
弐瓶 そうですね、全部ですけど……パイプですね。背景の絵がすごく良くて、パイプ越しに人を映すみたいなシーンがいっぱいあるのが好きですね。もちろん、話も面白いし……見所は全部ですね。あとは原作とだいぶ変わっているので、そのアレンジの仕方も見てほしいですね。逆に霧亥のキャラは、本当に原作と変わっていないので、そのブレなさにも注目していただければと思います。
──原作ファンも納得の喋らなさですね(笑)。
弐瓶 そうですね。ぜひ劇場で霧亥につっこんでください。「もっと喋れ!」って。
──(笑)。本日はどうもありがとうございました。
劇場アニメ『BLAME!(ブラム)』本予告② BLAME! The Movie Trailer②
プロフィール
弐瓶勉(にへい・つとむ)/漫画家。1971年生まれ、福島県郡山市出身。代表作に『BLAME!』『バイオメガ』『シドニアの騎士』など。1995年、『BLAME』がアフタヌーン四季賞で谷口ジロー特別賞を受賞。その後、高橋ツトム氏のアシスタントを務めた後、『BLAME!』の連載をスタート。『シドニアの騎士』を経て最新作『人形の国』を「月刊少年シリウス」にて連載中。
『BLAME!』
■配給:クロックワークス
■公開:5月20日(土)より全国公開
■公式サイト:http://www.blame.jp
■上映時間:105分
©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
【キャスト】
霧亥:櫻井孝宏/シボ:花澤香菜/づる:雨宮天/おやっさん:山路和弘/捨造:宮野真守/タエ:洲崎綾/フサタ:島﨑信長/アツジ:梶裕貴/統治局:豊崎愛生/サナカン:早見沙織
【スタッフ】
原作:弐瓶勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)/総監修:弐瓶勉/監督:瀬下寛之/副監督・CGスーパーバイザー:吉平"Tady"直弘/脚本:村井さだゆき/プロダクションデザイナー:田中直哉/キャラクターデザイナー:森山佑樹/ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則/美術監督:滝口比呂志/色彩設計:野地弘納/音響監督:岩浪美和/音楽:菅野祐悟/主題歌:angela「Calling you」/音楽制作:キングレコード/アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ/製作:東亜重工動画制作局